アルツハイマー病ワクチンの臨床試験で有望な結果

 開発中のアルツハイマー病に対するワクチン「AADvac1」の第2相臨床試験から、同ワクチンにより脳から異常なタウタンパク質(以下、タウ)が安全に除去される可能性が示されました。ただし、脳の機能を維持できるかどうかについては、現時点では不明だといいます。製薬企業AXON Neuroscience社(スロバキア)のPetr Novak氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」6月号に発表されました。

 アルツハイマー病では、過剰にリン酸化したタウが凝集して神経細胞の死を招き、脳の機能を低下させると考えられています。この異常なタウの凝集は、アミロイドβタンパク質のプラーク形成とともにアルツハイマー病に見られる特徴の一つとされています。AADvac1は、凝集を起こす前の異常なタウを標的とするように設計されたペプチドワクチンです。

 試験ではヨーロッパ8カ国196人の軽度アルツハイマー病患者が、ワクチン接種群(117人)、またはプラセボ接種群(79人)にランダムに割り付けられました。ワクチン接種群は、1回当たり40μgのワクチンを、24カ月にわたる試験期間中に11回接種しました。試験の主要目的は、長期間のAADvac1による治療の安全性と忍容性の評価、副次的な目的はAADvac1の免疫原性(異物が体内で免疫を引き起こす能力)、臨床的アウトカム、および神経変性の重要なバイオマーカーの評価でした。

 その結果、試験期間中に重篤な有害事象および有害事象が生じた対象者の割合は、ワクチン接種群では17.1%と85.6%、プラセボ接種群で24.1%と81.0%であり、AADvac1は安全かつ忍容性も良好であることが明らかになりました。また、ワクチン接種群のほぼ全ての患者において、異常が生じたタウのみの拡散を防ぐよう設計された抗体が作られていることが確認されました。さらに、ワクチン接種群ではプラセボ群と比べて、神経変性疾患の重要なバイオマーカーである血中のニューロフィラメント軽鎖タンパク質の蓄積量が58%有意に減少していました。このことは、脳脊髄液中のアルツハイマー病の特異的バイオマーカーとされる「リン酸化タウT217」などのリン酸化タウの大幅な減少によっても裏付けられました。

 しかし、思考力や記憶力の検査結果に関しては、プラセボと比べたAADvac1の有意な効果は示されませんでした。この結果についてNovak氏らは、同試験ではアルツハイマー病と臨床診断された患者の参加が少なかったことが影響した可能性があるとの見方を示しています。同氏らは、試験のデータを解析する段階で、異常なタウタンパク質の量が少ない対象者が約3分の1を占めていることに気付いたといいます。これに対して、同氏らがバイオマーカーのデータからアルツハイマー病と診断された109人の参加者を対象に2種類の尺度で認知機能を評価したところ、ワクチン接種群ではプラセボ接種群と比べて、臨床的悪化速度が27%、機能的悪化速度が30%遅くなることが示されたそうです。

 これらの結果を踏まえてNovak氏は、「タウのバイオマーカーが陽性の患者では、認知機能の低下にタウ病理が影響しているため、タウを標的とすることで疾患の進行を遅らせたり抑制したりすることができる。一方、タウのマーカーが陰性の患者では、タウ以外の要因が認知機能の低下に主に関与しているため、このワクチンで治療する意義は小さい」とする考えを示しています。

 なお、Novak氏によると、AXON Neuroscience社では、より厳密に定義したアミロイドプラークとタウ凝集の両方を有するアルツハイマー病患者を組み入れたフォローアップ試験が計画されている。この試験でポジティブな結果が得られた場合には、米食品医薬品局(FDA)に対して迅速承認の申請が行われる可能性があるということです。