スポーツ観戦でうつが抑制される可能性――日本人高齢者の横断研究

 スポーツで体を動かすとストレスが発散されることを、多くの人が体験的に理解していると思います。しかし、スポーツをテレビで見ることも、うつ傾向の解消につながるかもしれません。日本人高齢者を対象とする研究から、その可能性が明らかになりました。筑波大学体育系の辻大士氏らによる論文が5月19日、「Scientific Reports」に掲載されました。

 スタジアムなどでスポーツを観戦する高齢者は、主観的幸福感が高まる可能性が既に報告されています。ただし、これまで行われてきた研究は調査対象者数が少なく、またテレビでの観戦の影響はほとんど検討されていません。テレビの視聴はむしろ身体の健康に良くないとされることが多く、視聴時間を減らす啓発活動もなされています。このような状況を背景として辻氏らが行った研究は、対象者数が2万人を超えており、かつテレビやインターネットでの視聴も含めて、スポーツ観戦とうつ傾向との関連を調査しています。

 この研究は、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを横断的に解析したものです。JAGESは、全国60以上の市町村が共同で行っている高齢者(65歳以上)を対象とする研究で、登録者数は約20万人。今回の解析では、その中からスポーツ観戦に関する質問に回答していた2万1,317人(男性1万324人、女性1万993人)のデータを用いました。

 スポーツ観戦の頻度は、週に1回以上、月に1~3回、年に数回、観戦しない、という4つに分類しました。また観戦手段は、スタジアムや体育館などの現地での観戦と、テレビやネットでの観戦とに分類しました。観戦の対象はプロレベルのスポーツに限定せず、地元のスポーツクラブの試合なども含めました。なお、ニュースでダイジェストを見る程度の場合は、観戦に含めないこととしました。

 うつレベルは、高齢者のうつ症状のスクリーニングに用いられる「Geriatric Depression Scale;GDS」という指標で評価しました。これは15点満点で、点数が高いほどうつ傾向が強いと判断されます。今回の検討では、5点以上を「うつ傾向あり」と定義したところ、21.4%がそれに該当しました。

 自分自身が週に1回以上スポーツに参加している人(全体の58.2%)では、その28.8%が年に1回以上、現地でスポーツを観戦していました。自分自身のスポーツ参加頻度が週1回未満の人では、その割合が16.2%でした。一方、テレビやネットで年に1回以上スポーツ観戦する人の割合は、前記と同順に、86.2%、77.5%でした。

 スポーツ観戦と「うつ傾向あり」に該当する人の割合の関連の解析に際しては、うつリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、婚姻状況、就業状況、独居か否か、収入、喫煙・飲酒習慣、既往症、体格指数、日常生活動作、友人や地域社会とのネットワークなど)を調整しました。その結果、スポーツを観戦している人は、「うつ傾向あり」に該当する確率が有意に低いことが明らかになりました。

 具体的には、テレビやネットでスポーツ観戦をしない人に比べて、観戦頻度が年に数回の人は「うつ傾向あり」の有病率(PR)が0.92(95%信頼区間0.86~0.98)、月に1~3回の人はPR0.89(同0.83~0.96)、週に1回以上の人はPR0.83(同0.77~0.88)でした。また、現地で観戦しない人に比べて年に数回観戦する人はPR0.80(0.74~0.85)、月に1~3回ではPR0.79(同0.64~0.97)と、「うつ傾向あり」の該当者が有意に少ないものでした。なお、自分自身が週に1回以上スポーツに参加しているか否かで分けた場合、参加頻度が週1回以上の人の方が、スポーツ観戦とPRの低さとの関連が強い傾向がありました。

 このほか、スポーツ観戦をする人はしない人に比べて地域社会とのつながりや友人とのネットワークが充実していることが明らかになりました。媒介分析の結果、スポーツ観戦とうつリスクの低さの関連の9.6~23.7%を、地域社会とのつながりや友人とのネットワークの強さで説明できることが分かりました。

 これらの結果から著者らは、「スポーツを観戦する高齢者は観戦しない人に比べ、うつリスクが低いことが確認された。特に、テレビやネットでの観戦頻度では用量反応関係が認められた。テレビ視聴は健康への害が強調されがちだが、うつとの関連では異なる側面を持つ可能性がある」と考察しました。その上で、「スポーツを“見る”ことは“する”よりもはるかに容易だ。観戦クーポン券を高齢者に配布したりテレビやネットの中継を充実させることが、高齢者うつの予防戦略になり得るのではないか」と述べています。