Ⅲ.脳の高次機能と活動 記憶のしくみ 海馬で記憶をつくるしくみ

脳内にはつねに無数の情報が入り、次々と消えていきます。しかし、とくに重要な情報は、ニューロン回路の変化によって、長時間保存することができます。今日はこの辺を勉強しましょう。

 

感覚器からの各種情報を記憶として保持するには、ニューロン間にただ伝わるだけではなく、回路に何らかの変化が起き、ある程度維持されることをシナプスの可塑性(かそせい)といい、記憶研究の重要な概念となっています。

 

シナプスの可塑性についてよく研究されているのが、海馬での変化です。

 

最初に見いだされたのが、海馬の神経回路における長期増強(LTP:Long-Term Potentiation)という変化です。長期増強とはシナプスでの伝達率を増大させることで、その方法としては「受容体の数が増える」「神経伝達物質が増える」「シナプスの構造が変わる」の3つが考えられています。もっとも多いと思われる方法は受容体を増やすことです。

 

 

神経伝達物質を受け取るシナプス後膜にはじつは休止状態の受容体があります。NMDA(N-Methyl-D-Aspartate)というこの受容体は通常、外部から物質を受容する孔がマグネシウムイオンで塞がれています。しかし信号が繰り返し届くとマグネシウムイオンが外れ、受容体が増加します。

 

さらに信号が続くと、L-LTP(Late-face- LTP;超長期増幅)と呼ばれる長期増強も起こります。信号が神経細胞の遺伝子に伝わり、m-RNA(messenger RNA)というたんぱく質の設計図を発現させ、必要なたんぱく質が合成されます。するとシナプスの強化や新しいシナプスの形成により、さらに強力な信号増強となります。

 

シナプスの可塑性にはほかにも、長期抑圧やシナプスの発芽などがあると考えられています。