物忘れは正常な老化か認知症の兆候か?

 人の名前を忘れたり、知っているはずの単語がなかなか出てこなかったり、物を取りに移動してから何が必要だったか分からなくなったり、大切な物を失くしたり――これらは認知症の兆候なのでしょうか、それとも老化現象に過ぎないのでしょうか。

 専門家によると、それらが老化現象の範囲なのか認知症の兆候なのかを正確に判断するには、詳しい検査が必要だといいます。米ルイジアナ州にある認知症とその予防のための研究所の創立者であるJeffrey Keller氏は、「加齢とともに記憶力は誰でも低下する。重要なことは、そのような症状そのものよりも、その症状が発生した後の状況だ。例えば大切な物を失くしたと気づいた時に、失くした物を探し出そうとするかや、何かの作業を中断して時間が経過してからでも作業を再開できるかどうかといったことの違いが大きい」と解説しました。

 実行機能のスキル(物事の計画、意思決定、複数の作業の同時処理、問題解決能力)の低下は、物忘れよりも脳の健康が悪化していることを示す兆候とされます。そのような実行機能スキルの低下は認知症と診断されるよりもかなり早くから始まると言われています。昨年「JAMA Internal Medicine」に論文掲載された研究によると、アルツハイマー認知症と診断される6年前から請求書に対する支払い漏れが発生し始め、診断の2年半前にはクレジットカードの信用スコアが低下するといいます。米マイアミ大学のJames Galvin氏は、「理解力と判断力が低下し始めた人は、必要のないものを購入したり、詐欺の標的にされる可能性がある」と注意を促しています。

 米国アルツハイマー病協会では、時間や場所が分からなくなる、いつもできていたことができなくなるなど、認知症の10の初期症状のリストを示しています。Keller氏によると、それらの症状の現れる頻度が高い場合や、社会生活への影響が深刻であるほど認知症の疑いが高まるとしています。ただし、それらの症状が全て認知症によるものとは限りません。「コントロールされていない高血圧や糖尿病、うつ病、そのほかの病気がないかをまず確認すべきで、それらの可能性を除外してから認知症の詳しい検査を行う」と同氏は解説しています。

 認知症の治療法はまだありません。ただし、認知機能の低下を遅らせる方法はあるそうです。「Life's Simple 7(シンプルな7つの生活習慣)」と呼ばれるもので、具体的には、血圧・脂質・血糖のコントロール、禁煙、健康的な食事、適正体重の維持、運動習慣のことを指します。これに関連して米国心臓協会(AHA)は最近、かかりつけ医に対し、患者の肥満、糖尿病、睡眠障害、難聴、過度のアルコール摂取、社会的孤立、うつ状態を評価・治療することを推奨するステートメントを「Stroke」に発表しました。

 これらに加えてKeller氏は、認知機能を維持するために人々ができることをもう一つ提案しています。それは、絶えず新しいことを学び挑戦することだといいます。「新しい言語を学び、興味のある領域の知識を深め、新しい趣味を見つけること。そのようなことが脳の柔軟性や認知機能の維持にとってとても重要だ」と同氏は述べています。