地中海食による認知症予防に新たなエビデンス

 野菜や果物、オリーブオイル、魚が豊富な、いわゆる地中海食と呼ばれる食事スタイルは、認知機能の低下を防ぐ可能性があることを示唆する研究結果が「Neurology」に、5月5日掲載されました。アルツハイマー病の特徴とされるアミロイドβやタウタンパク質の蓄積および認知機能と、食習慣の関連を調べた結果です。筆頭著者であるドイツ神経変性疾患センターのTommaso Ballarini氏は、「地中海食は神経変性から脳を保護するように働き、認知症発症リスクを抑制するのではないか。因果関係の証明と根底にあるメカニズムの解明のため、今後の研究が期待される」と語っています。

 Ballarini氏らは、ドイツで実施されている認知機能障害と認知症に関する縦断研究のデータを用いて横断的解析を行いました。解析対象数は512人(平均年齢69.5±5.9歳)で、169人はアルツハイマー病(AD)のリスクを有さず、他の343人は何らかのADリスクを有していた(AD近親者53人、軽度認知障害81人、脊髄小脳変性症209人)。

 148品目の食品の摂取状況を質問する食事アンケートの回答に基づいて、研究参加者の食生活の地中海食らしさをスコア化し判定するとともに、認知機能検査を実施。さらに226人については髄液検査を施行して、ADのバイオマーカーであるアミロイドβやタウタンパク質のレベルを調べました。

 年齢や性別、教育歴などの影響を統計学的に調整した後、地中海食に近い食生活を送っている人ほど、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積が少ないことが明らかになりました。具体的には、地中海食スコアが1点高いごとにAβ42/Aβ40比(低いほどアミロイドβの蓄積を意味する指標)が高く(β=0.003、P=0.008)、タウタンパク質は少ない(β=-1.96、P=0.004)という相関が示されました。また、地中海食スコアと記憶力との相関も認められました(β=0.03、P=0.038)。

 これらの変化は、約1年分の加齢変化に相当すると考えられました。なお、地中海食スコアとこれらの変化との関連は、ADの遺伝的なリスク因子(ApoE4)を保有しているか否かにかかわらず、一貫して認められました。

 著者らはこの研究の限界点の一つとして、地中海食スコアを研究参加者の自己報告に基づいて判定したため、精度が十分高いとは言えない点を挙げています。その上でBallarini氏は、「地中海食の順守は、ADのリスク関連マーカーレベルが低いことや記憶力の高さと関連がある」と結論付けています。

 この報告について米アルツハイマー協会のHeather Snyder氏は、「ADのリスクを低下させる生活習慣は、食生活に限ったことではない」と説明しています。同氏によると、運動習慣もまたADのリスクを低下させるといいます。「重要なことは、何か一つの生活習慣がADリスクを抑制するのではなく、恐らく複数の習慣の組み合わせが相乗効果をもたらしているという点だ」と同氏は語り、その組み合わせを特定する研究の必要性を指摘しています。

 またSnyder氏は、「地中海食をはじめとする健康的とされる食習慣は、いずれもADリスクの低さとの関連が認められる。それらの食習慣の共通点は栄養バランスに優れていることであり、結果として脳が必要としている栄養素の供給が満たされる。『これが正しい』という食生活はない。必要な栄養素をまんべんなく適量摂取するとともに、活動的な日々を送ってほしい」とアドバイスしています。