学歴の高さは脳の加齢変化に影響せず

 大卒の学歴はさまざまな場面で有利に働くかもしれませんが、加齢に伴う脳の萎縮の予防には役立たない可能性があることを、オスロ大学(ノルウェー)のAnders Fjell氏らが報告しました。これまで、教育が加齢に伴う記憶力や思考力の低下に対して保護的に働くことが、数多くの研究で示唆されていました。ただ、これらの報告は因果関係を証明するものではありませんでした。今回のFjell氏らの研究では、脳の加齢変化の客観的指標となる脳萎縮と教育水準との間に強い関連は見出されなかったといいます。この結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」5月4日号に発表されました。

 この研究は、欧州の29~91歳の成人2,024人を対象としたものです。全ての対象者が最長で11.2年間の追跡期間中に脳MRI検査を2回以上受けていました。解析の結果、高齢者の方が若年者よりも脳容積が小さいという、予想通りの結果は得られました。しかし、学歴の高さと脳容積との間にはわずかな相関関係が認められただけでした。また、脳容積の経時的な減少スピードは、教育を受けた期間にかかわらず同程度であり、高学歴の人の脳容積の減少スピードが遅いことを裏付けるエビデンスは得られませんでした。

 この結果について、Fjell氏は、「加齢に伴う脳の変化に対し、教育による保護効果はない可能性が示された」と説明しています。

 ただし、今回の研究には関与していない、米アルツハイマー病協会のサイエンティフィック・プログラムおよびアウトリーチ部門のClaire Sexton氏は、「この研究結果は、過去に報告された教育が脳に及ぼす他の利点を否定するものではない」と話し、「教育は脳の加齢変化を防ぐわけではないが、それを乗り切る一助にはなる」としています。例えば、学歴の高い人は、認知予備能が高いと考えられています。認知予備能とは、脳組織が衰えても鋭敏な知力を保持できる能力のことです。

 この他にも、教育には人々を認知症のリスク因子から守る間接的な効果があることも考えられるといいます。例えば、高血圧や糖尿病などの疾患は、心臓や血管に悪影響を与えて認知症リスクを高める因子とされています。高学歴の人たちは生活にゆとりがあるため、高血圧や糖尿病などの抑制につながる、健康的な食生活や余暇のスポーツ活動などを行うことができます。その結果、心臓血管系が良好に保たれ、認知症リスクも抑制されるとSexton氏は指摘しています。

 Fjell氏も、「今回の研究結果は、加齢に対して教育が有益な影響を与える可能性を否定するものではない」としています。ただ同氏らは、「この結果が、教育が何らかの機序で脳の加齢変化を遅らせる可能性がある、という考えに疑問を投げかけるものであることは確かだ」と付け加えています。

 論文の筆頭著者で、ウメオ大学(スウェーデン)のLars Nyberg氏は、「これまでにも精神的刺激がもたらす効果について有望な研究成果が報告されてきたが、大規模な長期追跡研究はなされてこなかった」と指摘。同氏は、「今回の研究からは、より広範な意味を含んだメッセージを読み取れる」とし、「個人として、また社会全体として何に重点を置くべきかを明らかにするために、これまで修正可能とされてきた因子について、今後も解明を進める必要がある」と話しています。

 なお、アルツハイマー病協会は現在、認知症の遅延、あるいは予防に有用な具体策を明らかにすることを目的とした臨床試験を助成しています。同試験では、運動や高血圧および糖尿病のコントロール、精神的な刺激を与える活動など、生活習慣上の対策を組み合わせることで高リスクの高齢者の認知機能の低下を遅らせることができるかどうかを検証中だそうです。